はじめて触れたグランドピアノは
ひとつひとつの音が、うつくしかった。
なめらかな音が、耳に心地よく残る。
弾いている時間の尊さを、肌で感じた。
存在するだけで異彩を放つグランドピアノは、
とても高貴で触れることさえ、憚られる。
重厚感が際立つそのピアノに、緊張感が高まる。
音を奏でる。
強さや弱さが、自分に委ねられる。
長さや短ささえ、自分の手にかかっている。
憧れていた。
見るだけだったその存在に今、触れられる
というリアルがこころを弾ませた。
そのときだけ。
その時間だけ。
触れられるのは、このときだけ。
本当にうつくしい音は、きえない。
本当にうつくしい響きは、鳴り響く。
いつまでも。